提案から施工までを
学生達だけで手掛ける
地域の行政機関などと共同で行うプロジェクト型の授業は、大学での学び方として徐々に増えていますが、不動産業者や一般企業からの依頼を受けて、アパートやオフィスのリノベーションを学生中心に行う、といったらどうでしょうか。このようにまるで普通のビジネスと変わらないスタイルで、学外からの業務依頼を受けたりしながら、建築の知識・技能を高め、卒業後に役立つ社会 人基礎力や問題解決力を伸ばせることが、KIT オナーズ プログラムのひとつである「Toiro(トイロ)」の特徴です。プログラムは1年次からスタートし、建築デザイン 学科(現:建築学科)4年の森田莉都さんと山下楓茄さんも、入学して早々に Toiro のスタジオで使用する作業 机の制作や地域のお祭りでの空間設計、体験教室の展開 などに取り組みました。
「依頼を受けて、企画提案からはじまり、設計から施 工まですべてを行うのが基本的なプロジェクトの流れです。設計だけ、施工だけではないから、建築に関する全体的な知識が身に付きますし、プレゼンの力も鍛えられ ます。大学近くのアパートのリノベーションでは、各部屋のコンセプトの立案からスタートし、人手や時間が限られた中で家具製作も含めて6部屋の施工を行うのが大変でしたね」(森田さん)
「学童の図書室をリノベーションしたプロジェクトが 思い出深いです。先輩がいないチームでリーダーを務め、 メンバー・スケジュール・予算などの管理だけでなく依 頼主との交渉も前面に立って行いました。辛いこともあ りましたけど、信じられないくらいの成長や達成感を得 ることができました」(山下さん)
2018年に当時の3年生14名の手によって進められた小松電業所総務部オフィスのリノベーション で、施主と建設会社と大学の三者の協力のもと、DIY リノベーションも含めた個性的なオフィス空間を実現しました。白山をモチーフとしてデザインされた三連戸もカッティングマシンを使用して学生自身で制作。多様な木質を活用した、表情豊かなデザイン性が大きな特徴となっています。
希少な経験と出会いが
自身の力を飛躍させる
そして2人が声を揃えて「たくさんの大事なことを学ぶことができた」と語るのが、当時3年生だった2人を含 む計 14 人の学生で取り組んだ、(株)小松電業所総務 部のオフィスを手掛けた、オフィスリノベーションプロ ジェクトです。
これまで Toiro が手掛けたプロジェクトの中でも、最大 規模である同プロジェクトの改修面積は 385.52m²にもおよびます。建設会社と共同で行われたもので、他プロ ジェクト同様に、リノベーションの企画提案から設計、 施工までも学生の手によって行われ、2018年4月から半年以上をかけて、リノベーションの作業が行われました。
「3年次は大学の授業も専門性が高まる時期で、確かに Toiro との両立が大変な1年間でもありました。けれ どそんな時間を頑張ってやり遂げられたのは、やはり根 底にある『建築が好き、建築がやりたい』という思いだ と思います。多くのメンバーとともに活動する中で、お 互いを理解し、一人も取り残さないようにするため、“ 皆 が納得するまで話をする “ というのが、Toiro の方針の ひとつでもありました。メンバー間だけでなく、依頼主 の方々も含めて、多くの人と交流し、多くの人と誰かの ためにものをつくった経験は、学部の授業ではなかなか できない経験だったと思います」(山下さん)
「ひとつひとつのプロジェクトを通して学んだことは もちろん、個性豊かな Toiro のメンバー達と出会い、多 くの価値観に触れたことで自分に考え方を広げることが できました。建築の学びは机に向かって黙々と作業をす ることも多いのですが、そんな中で誰かと一緒にものづ くりをする経験を積めたこと、お互いに学び合えて、支 え合える仲間に出会えたことは、とても嬉しいことでし た」(森田さん)
卒業後、森田さんは建設会社、山下さんはハウスメー カーへと進むことが決まっています。KIT オナーズプロ グラムで培われた力がこれからの 2 人の大きな推進力と なることは間違いないでしょう。
2012年にスタートした「Toiro」。地域との連携をベースに、家具や各種空間装置のデザインや制作、まちづくりイベント支援などその活動は多岐にわたります。1年次の家具づくりからはじまり、2年次には野々市市カメリア祭りにおける空間演出などを実施、3年次以上は DIYリノベーションやまちづくりイベント支援等を行ないます。